歯科で用いる漢方薬について

タニダ歯科医院ブログ

西宮市の「タニダ歯科医院」がお送りするブログです。

歯科で用いる漢方薬について

こんにちは。歯科医師の秋田です。

昼間はまだまだ暑いですが、朝晩は涼しい日も増えて

少しずつ秋の訪れを感じるようになりました。

さて、今日は歯科で用いる漢方薬についてお話します。

あまり歯科医院と漢方薬の結びつきをイメージされる方は

少ないと思います。しかし、実は我々の分野でも

有効に使用できる薬がありますので以下にいくつか

ご紹介いたします。

 

 

①立効散(りっこうさん):歯痛,抜歯後の疼痛

②半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう):口内炎

③黄連湯(おうれんとう):口内炎

④茵陳蒿湯(いんちんこうとう):口内炎

⑤五苓散(ごれいさん):口渇(口腔乾燥症)

⑥白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう):口渇(口腔乾燥症)

⑦排膿散乃湯(はいのうさんきゅうとう):歯周炎

 

①立効散は、抜歯後及び顎顔面領域の疼痛に

効果があるとされています。いくつかの報告からは

普通抜歯で抜歯後疼痛が軽度と予想される場合には

鎮痛効果が期待できるが、難しい抜歯では十分な効果は

期待できないと思われます。

中国では口腔内に含み使用することから、

粘膜表面作用を期待していると思われます。

この方法を応用して、象牙質知覚過敏症に

フッ化ジアミン銀の塗布の立効散の内服を併用して、

治療効果が向上した報告もあります。

証をあまり考えないで処方できる漢方薬と言えます。

②半夏瀉心湯、③黄連湯、④茵陳蒿湯は、アフタ性口内炎、

特に再発性に適応があると考えられ、舌炎、口唇ヘルペスにも

効果を示す可能性があります。それぞれの使用目標は、

半夏瀉心湯は、いつも胃がもたれたり、悪心があり、

お腹がぐるぐる鳴って下痢しやすい人で

口内炎などのある場合に用いられます。

最近ではがんへの化学療法による口内炎に対する

有効性の報告があります。

舌は厚い白黄苔を見ることが多い傾向があります。

黄連湯は、半夏瀉心湯の中の黄を桂皮に変えたような

構成の方剤で内容がよく似ています。

平均的な体力であるが、冷え性、腹痛を起こしやすく

胃腸障害がやや弱い場合に適用します。

舌苔(舌につく汚れ)は膩(じ:べたべたしている状態)で

黄白水滑、舌根部でやや厚い傾向があります茵陳蒿湯は、

便秘傾向があってイライラがあり、

比較的しっかりした胃腸障害の持ち主で、

口が粘ったり苦味を覚えたりするようならばさらによい、

逆に冷え性には用いない方が良いです。

舌が紅、乾燥、黄膩苔

(きいろくベタベタ、舌苔が沢山ついている状態)が

多い傾向があります。

⑤五苓散や⑥白虎加人参湯は、

口腔乾燥症に代表的な漢方薬です。五苓散は尿量の減少、

めまい、体が重いなどの訴えを使用目標とし、

利水作用があることが知られています。

利水は体内の水分の代謝異常を調整し、

正常に戻す働きのことであります。すなわち、

水分の停滞からくる口渇、浮腫、嘔吐などの

症状に対応する方剤です。舌は多く湿潤で白膩苔であります。

一方、白虎加人参湯は、糖尿病、シェーグレン症候群、

向精神薬、抗不整脈薬、放射線治療後の口腔乾燥症の

有効性が注目されています。使用目標は、体のほてりや、

疲れやすい、多汗、脱水症状や軽い寒気、舌は乾燥、

白苔か黄苔が多いです。

⑦排膿散乃湯は、患部が疼痛を伴う化膿性の皮膚及び口腔、

咽喉の腫物に対し、方名の通り排膿の目的で用いられています。

歯肉が紫色、腫脹、痛みなどがあり、膿汁を出している場合が

適応であると考えられます。舌は淡紅、白色から

微黄苔が多い傾向があります。歯周炎の急発時に、

抗菌薬との併用方法が有効であると報告されています。

また、智歯周囲炎、消炎切開後の疼痛、

硬結に有効である報告もあります。

参考文献:

王 宝禮,王 龍三:今日からあなたも口腔漢方医 – チェアサイドの漢方診療ハンドブック – ,医歯薬出版, 2006

王 宝禮,王 龍三:続今日からあなたも口腔漢方医- 口腔疾患別漢方診療ハンドブック-,医歯薬出版, 2012

 

不定愁訴に対し一般的な処方薬(新薬)でなかなか効果を

感じられない方は一度漢方薬を試してみるのも良いかもしれません。

それではまた。