2021/04/15
こんにちは。訪問担当歯科医師の岩本です。
今回は水の誤嚥についてお伝えしたいと思います。
病気や加齢により嚥下の機能が落ちてくると、
まず、さらさらのお茶や水を飲んだ時にむせやすくなります。
その状態が続くと、誤嚥(誤嚥性肺炎)を防ぐために、
とろみ剤などを用いて水分にとろみをつけ、
飲みやすく調整したものを飲むように指示されることがあります。
ところが、このとろみ水(茶)は、
「喉の渇きを癒す」という点においては、
あまり美味しいものではありません。
脱水を起こしやすい高齢者にとっては水分の補給はとても大切なことなのですが、
人によってはとろみ水分を嫌がり、あまり飲まないという方もおられます。
また、とろみ水はまとまった量を飲むのが難しく、
結果的に水分摂取量が少なくなるという問題もあります。
体内の水分が不足すると、気道の粘膜表面が乾き気味になってしまい、
身体にとって有害な、痰を排出する力が低下します。
そして汚れた痰が体内に留まることにより、
肺炎の発症率が上がると考えられています。
一般的には誤嚥=肺炎の原因と考えられがちですが、
水そのものは誤嚥しても、呼吸器にダメージを与えることなく、
速やかに血中に吸収され、有害ではありません。
肺の炎症を起こすのは細菌であり、飲料水の中に含まれる細菌数は、
唾液に含まれる細菌数と比較するとかなり少ない数です。
アメリカにおける調査で、
「とろみ水分の摂取を指導されている患者が隠れて普通の水を飲んでいても、
その患者達に肺炎発症が増えたという事実は無かった」というものがあります。
これらに基づき、「きちんと管理した上で、飲水を認めても良いのでは?」という考えが生まれました。
1984年から始まったこの試みはFree Water Protocolと呼ばれているものですが、
嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)で水分誤嚥が認められる患者であっても、
一定の条件下において飲水を許可するというアプローチです。
一定の条件とは何か、そのガイドラインは以下のようなものです。
1.言語聴覚士のスクリーニングによる適応患者の選定
2.検査機器を用いた嚥下精査の実施
3.経口摂取を認められており、水分を誤嚥する患者においては「食間」のみ飲水可能
4.3の患者の「食事中の」水分摂取は必ずとろみを付ける
5.絶飲食患者においては随時飲水可能
6.全職員で対象患者の情報共有
7.口腔ケアの徹底
8.有効な姿勢調整の積極的導入
9.水による服薬の禁止
この方法で食間の飲水を許可することにより、
喉の渇きを解消できる安心感からか、
食事中のとろみ水は拒否なく受け入れられるようになったそうです。
また、水分を十分摂取することにより、肺炎発症率の低下、
尿路感染症予防、などにおいて良い結果も得られ、
患者の精神的満足度は高かったとの報告があります。
もし、日本においても調査が進みこの考えが認められるようになれば、
今よりも肺炎発症率が下がるのかもしれません。