2022/01/18
こんにちは。訪問診療担当の岩本です。
今回は「食べられなくなった」時の
口腔内についてお伝えします。
私たちが生きていく上で
必要な栄養の殆どは、
食事をとることによって
獲得しています。
歳を重ね、また病気などで
「食べられない」状態になったときは、
点滴や胃ろうなどの方法で、
口を通さずに栄養を摂取する
場合があります。
この時、口の中は
どうなっているでしょうか。
「食べないから汚れない」
でしょうか。
実はそうではありません。
口を動かすことが少なくなると、
唾液の分泌が減少します。
また、しっかり口を閉じられず
開いたままになるため、
口腔内は乾燥が進みます。
さらに水分摂取量の低下による
脱水症状も、乾燥に
拍車をかけます。
乾燥が進むと、
舌も動かしにくくなります。
次第に、唾液、舌、食べ物の
接触による口腔内の自浄作用が
働かなくなるため、粘膜の
老廃物は剥がれ落ちることなく、
そのまま残るようになります。
食事が出来ていた頃、
自然ときれいに保たれていた
粘膜の表面に膜状に
こびりついたものは、
近年では
「剝離上皮膜」
と呼ばれています。
剝離上皮膜は、
便宜上「痂皮」「乾燥痰」などと
呼ぶこともありますが、
厳密には別の物です。
その成分は
口腔粘膜上皮の老廃物と、
唾液由来のムチンという成分が
主体となっています。
性状は粘液状~固い皮膜性のものまであり、
時間の経過と共に固くなっていきます。
ではこの剥離上皮膜は、
どの位の時間で形成されるのでしょうか。
口腔ケアで粘膜をきれいに清掃してから、
約3時間後には、痰の様に見える
粘液状の付着物が口蓋などに
みられるようになります。
そして6時間ほど経つと、
それらは粘り気のある膜を
形成し始めます。
12時間経過する頃には、
乾燥性の膜状物となります。
ここまで来ると、
口腔ケア時に取り除くのが
困難になります。
口腔内は干からびて
固められたようになり、
舌をはじめとする筋肉の運動が
妨げられる悪循環となります。
発音や、嚥下の機能はさらに低下します。
咽頭に及ぶと窒息の危険も生じます。
このような事態を防ぐためには、
少なくとも6~12時間ごとに、
粘膜の清掃を行う必要があります。
固まってしまった汚れは、
口腔清掃シートやスポンジブラシで
こするだけでは除去できません。
強くこすると痛みを伴い、
出血することもあります。
急いで無理に取ろうとするのではなく、
まず水分を含ませ、ゆるめて
浮かせることが重要です。
口腔ケア用の保湿ジェルなどを
始めに塗布しておき、
数分おいてから優しく剥がして
取り除きます。
塊となって剥がれてきたものは、
喉の奥に落とさないよう、
注意して取り出すようにします。
訪問診療時には、歯科衛生士の
実際のケアをご覧いただけます。
非経口摂取患者さんの
口腔ケアに迷われている方は、
一度ご相談ください。