2024/11/07
こんにちは、歯科医師の武田です。
「歯を守るための力のコントロール」について数回にわけて
お話しさせていただいております。
どうぞよろしくお願いします。
◆ 咬合力による顎顔面骨の力学的適応変化について
ヒトの顎顔面形態は古代から現代にかけ徐々に変化してきたといわれる。
最大の特徴は顎骨の縮小傾向にあり,その結果,現代人における
歯の数と顎骨の不調和が増加し,不正咬合や顎関節症の増加を
きたしていると一般的に認識されている。
顎骨が縮小するには多くの要因が考えられるが,
その一つが食文化の発達による軟食化で,
摂食に必要な咀嚼力が減少したことによると考えられている。
現代でも幼児期からの咀嚼運動は,顎顔面骨格の健全な成長,
歯列の育成に大きく影響するとされ,矯正治療など全顎的な
歯列構成の改善の結果,顎関節形態を含む顎顔面骨領域の不正が
改善され理想的な顔貌形態の獲得につながると信じられている。
補綴学的には,8020運動にみるまでもなく歯の保全が
健全な咀嚼器として重要であり,歯列の確保が健康長寿に
寄与できると考えられている。一方で,大臼歯を喪失した
場合でも最低限の口腔機能が維持されれば,
過度な補綴介入を制限する短縮歯列に代表される理論も存在する。
運動器としてのヒトの頭部の特徴は,骨格が概形を決める
重要な要因であり,構成要素の大部分が頭蓋骨,その他に
下顎骨と舌骨がある。頭蓋骨は前下半部を除く大部分は
脳頭蓋と呼ばれ脳組織の保護器としての役割が強い.
頭蓋骨の前下半部は顔面頭蓋と呼ばれ脳頭蓋との連結部にみられる
視覚器,正中部にある呼吸器,嗅覚器としての鼻腔,
その他多くの複雑な神経,血管網に加え咀嚼器としての
歯列,咀嚼筋群とその付着部位が存在する。
解剖学的には,頭蓋の枠組み構造は咀嚼圧や咬合圧の伝達と
対抗および咀嚼筋の牽引に抗する理想的な補強構造を有し
ていると考えられ,その補強構造は縦走する犬歯の補強構造と
頰骨の補強構造ならびに翼状突起の補強構造からなる。
縦走する犬歯と頰骨の補強構造は眼窩上縁と下縁で水平位に
連結され,補強構造部を連結させている水平位の
各部の緻密骨の骨層板と骨層板を構築している線維性基質は
咀嚼圧の伝達路に一致して排列している。
A 犬歯の補強構造
B 頬骨の補強構造、大臼歯の咀嚼圧の伝達路
応力勾配は両眼窩の中央付近に収束し,篩骨鶏冠を
運動学的中心と考えたモンソン球面説に近似することは興味深い.
モンソン球面説はバランスドオクルージョンの理論的背景の
一つを成した仮説で、下顎運動理論として科学性に欠けるとして
後世の研究者により否定されたが,歯列および歯の長軸方向から
下顎運動と頭蓋の関係を力学的・三次元的に捉えたモンソンの
彗眼が評価されていることは,現在でも一部咬合器に
その理論が応用されていることからもわかる。
相当応力は顔面骨格の前面観に分布し,荷重は歯を介して
上下顎骨および顔面頭蓋の前方に広く波及する.
また,応力勾配は頰骨弓,鼻腔側壁など歯槽部から離れた部位に
集中域を認め,両眼窩の中央付近に収束する。
平均相当応力(MPa)は大臼歯部で高値を示し、
第一大臼歯に最も強い反力が生じる。
下顎の変形は,下顎骨体が外側に膨らみ関節部が内方に
傾くように変形し,膨張のピークはオトガイ孔より
後方にあることが推察される。
欠損に伴い残存歯の相当応力平均値,とくに最遠心臼歯部
の応力平均値は高値を示し,欠損歯直上の上顎骨側面の応力が
小さくなり,鼻腔周囲,両眼窩中央を中心とした顔面頭蓋前面の
応力が大きくなる.また下顎頭の反力が大きくなっていることから
臼歯部支持の減少に伴い顎関節部を含む周囲骨組織の負担は大きくなる。
骨代謝のスイッチであるメカニカルストレスは,顎顔面領域においては
咀嚼をはじめとする咬合力に他ならない.近年,咀嚼と認知症発症の
関係など口腔機能と健康長寿が深く関連していることが少しずつ
明らかになってきている。
力は歯根を介して顎骨に伝達され広く顔面頭蓋に伝搬・分布する。
咀嚼により発生するメカニカルストレスが形態学的な顎顔面骨の
維持だけではなく,骨代謝を介して脳の活性や恒常性の維持に
関与している可能性が十分あり得る。
正常咬合においては,応力は顔面頭蓋前面に広く分布し,
咬合力は歯を介して上下顎骨および顔面頭蓋の前方に波及し,
歯槽部から離れた部位に応力の集中域を認める。
また,両眼窩の中央付近に収束する水平成分が多く認められ
解剖学的な顔面頭蓋の補強構造と一致する。
歯の健康、美しさを保つには、
定期的なクリーニングがとても大切です
ぜひタニダ歯科クリニックで定期健診を。
ご来院お待ちしております。
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