2018/04/21
院長の谷田です。
今日と明日の2日間、神戸国際会議場で摂食嚥下障害の研修会に参加しています。
摂食嚥下障害を治療するには他職種による連携が必要です。
この研修会では、医師・歯科医師・歯科衛生士・薬剤師・言語聴覚士・理学療法士・看護士・栄養士など他職種によるそれぞれの立場でのノウハウを提供して、お互いに吸収する意図で開催されています。
当院は訪問診療も行っています。
各歯科医師・衛生士はそれぞれ研修会に参加してレベルの高い訪問診療を目指しています。
私も訪問診療をしていますが、私の専門は嚥下内視鏡(VE)を使用した摂食嚥下障害のある方への訪問診療です。
簡単に言うと以下のような症状が出ている方を診察して欲しいという、施設や医科の主治医や家族の方からの依頼です。
*最近食事時にむせるようになった。
*食べ物が喉を通らない。
*原因不明の突発性の発熱が出る。
*脳梗塞などの病気で入院して胃ろうにしていたが、口から食べてよいか判断して欲しい。
*認知症が有りうまく食事が取れない。
*誤嚥性肺炎を予防したいが、どんな食事形態(刻みにするのか、ミキサー食にするのか、トロミをどれくらいつけたらよいか)にすればよいか。
などなどです。
日本の現在の死亡原因の第1位は悪性新生物(ガン)で、第2位が心疾患、そして第3位が肺炎です。この肺炎による死亡者が急激な勢いです増えています。
肺炎の死亡者の8割以上が65歳以上の高齢者で、そのまた8割以上が摂食嚥下障害などで起る誤嚥性肺炎による死亡です。
言い換えれば肺炎イコール誤嚥性肺炎と言っても過言ではありません。
なぜこれほどまでに誤嚥性肺炎によって亡くなられる方が急増しているのでしょう。
まず誤嚥性肺炎という病態の認識が意識されだしたのが最近になってからということ。
あとは誤嚥性肺炎を診療する医師・歯科医師が潜在患者の数に対してとてつもなく少ない事です。
入院されている方が誤嚥性肺炎の診療を受けるのは何ら問題はないのですが、家庭や施設に入ってる方の診療となると話は違ってきます。
誤嚥性肺炎の診療で喉を診るために、訪問診療されている耳鼻科の先生は現在ほとんどおられないのではないでしょうか。
歯科でも喉を診るために嚥下内視鏡を使って診断し、なおかつ食形態や食事時の姿勢、もっと踏み込んで栄養状態までアドバイスできる歯科医師はごくごく限られているのが現状です。
当院でも将来に向かって私の嚥下内視鏡の技術を勤務の歯科医師の先生方に伝えようと計画しています。
摂食機能障害はわれわれ誰にでも起こりうる機能障害です。
摂食嚥下障害は、老化によって飲み込みに関連する筋肉(首周り)が衰えてもおこりますし、姿勢が悪くなっても(猫背)起こる可能性があります。
特別な事ではなく、誰にでも起こりうる可能性があるのです。
もちろん、脳梗塞やパーキンソン病の影響でも起こりますし、認知症でも起こります。
もっと言えば、服用する薬(向精神薬や一部の睡眠薬など)によっては摂食嚥下障害を起こす事もあるのです。
摂食嚥下障害は症状がでてしまうと、リハビリテーションが必要になってきます。
介護する方にも負担がかかります。
完全に回復しない場合もあります。
摂食嚥下障害においては何よりも予防が大切なのです。
ですから少しでも摂食嚥下障害に関連するような症状が出たら早めに医療機関に相談に行かれる事が重要です。
もちろん当院でも相談・治療が可能です。
2017/10/30
「生きるという事は食べる事」この当たり前のような言葉が、いかにかけがえのないものかを最近痛切に感じています。
最近訪問診療で「嚥下を見て欲しい」という依頼が増えています。
「嚥下」とはあまり聞き慣れない言葉かもしれません。
「嚥下」とは、口の中に入って食べ物を食道から胃に送り込む一連の運動を意味します。
10年以上前では嚥下という言葉自体がまだ認知されていませんでしたが、今は知らない方はほぼいないと思われます。
なぜ嚥下という言葉がこれほど注目されるようになったのか。
嚥下できないという事は逆に言えば、食道に流れるべきものが気管に入ってしまっている可能性があるという事です。
気管に入ってしまえばそれは誤嚥という事です。
誤嚥するとそれは肺炎の原因になり、高齢者にとっては死亡の原因になります。
平成23年より死亡原因の第4位だった肺炎が脳血管疾患(脳梗塞や脳出血)を抜いて第3位になりました。
ちなみに第1位は悪性新生物(ガン)、第2位は心疾患です。
その肺炎のうちの90%以上が65歳以上の高齢者で、なんとその70%以上が誤嚥が原因と言われています。
いかに誤嚥で亡くなる方が増加しているかという事です。
すでに始まっている超高齢化社会にとって深刻な問題です。
では誤嚥を凄く簡単に説明してみます。
凄く簡単にです。
ではあなた、唾液を飲み込みながら息を吸ってみて下さい。
出来ないですよね。
出来ないのが普通です。
人間の喉頭(のど)の構造は通常、空気を肺に送り込む気管と胃に食べ物を送り込む食道が並行に位置しています。
物を食べていない時は、息をする為に気管の入り口が開いていて、逆に食道の入り口が閉まっています。
物を食べたり飲んだり、唾液を飲み込む時は、逆に食道の入り口が開いて気管が閉まります。
この気管と食道が交互に開閉するシステムは、主に脳がそれを判断しています。
下の図にあるように、目で物を確認して飲み込むまで約1秒。
まさに究極の離れ業です。
この究極のタイミングも脳血管疾患や加齢、また服用している薬剤によって正常に作動しない場合があります。
これが誤嚥です。
要は何か物が入ったときに、気管に蓋をするのが間に合わず肺に入ってしまうことです。
嚥下は奥が深いので簡単に説明しましたが、下記のような症状が出た時は誤嚥している可能性が大きいです。
*食事の時間が以前に比べて長くなった。
*いつまでも口の中に食べ物が入っていて呑み込めない。
*食事中に口から食べ物がこぼれる。
*食事中にむせたり、せき込んだりする。
*水やお茶を飲んでもむせる。
*最近体重が減ってきた。
*原因不明の突発的な発熱がある。
書き出したらきりがないのでこの辺でやめますが、本当に嚥下は奥が深いです。
以下は訪問嚥下診療で私が行っていることの一例です。
突発性の発熱からの肺炎で入院されていた方(70歳代)が治癒して高齢者施設へ戻ってこられました。
病院では経鼻栄養だったのですが、施設へ戻って「口から食べるときに誤嚥していないか、またどのような食形態のものが良いのか」教えて欲しいという施設の方と主治医からの依頼です。
ご家族からは、ご本人はパンが好きなので食べさせてもよいかというご質問もありました。
以下は嚥下内視鏡検査を実施した結果の主治医への意見書です。
このような診療を訪問の現場でしています。
「~様のVE(嚥下内視鏡検査)の所見と見解について」
まず嚥下反射自体は悪くないとおもいます。声門閉鎖も良好です。
口唇の閉鎖と舌の動きも問題ありません。
但し入院されて寝たきりであったためか、首周りの筋肉が落ちており、なおかつ硬直も見られます。
また御年齢のこともあり、喉頭が下がっているので、飲み込むまでに喉頭挙上が間に合わない状態です。
実際に食べて頂いた状態での観察では、食道開口部が開かずに梨状窩に食べカスが残留している状態です。
結論として食形態は嚥下反射自体は悪くないので、現在のトロミ食からひとつ上のソフト食に上げます。トロミ食だと水分が離水してしまって、現在の喉頭挙上が充分ではない状態ではタイミングが合わず、かえって誤嚥してしまう可能性があります。
また食事時間と量も現在の半分にしてもらい(今の時間だと本人が後半食べるのに疲れてしまって誤嚥の危険がある為)、足りない分は高栄養補助食で補ってもらう方が良いと思われます。
ご家族が希望されているパン食などはまだ無理だと思われます。
今後リハビリ等の効果を見ながら様子を見ていきたいと思います。
我々の方では、義歯の調整、口腔内清掃(唾液誤嚥による誤嚥性肺炎の防止の為)、舌の運動訓練、首・肩周りの筋肉マッサージ、唾液腺の刺激等を行っています。
1ヶ月後には再度嚥下内視鏡検査で嚥下の状態を見て食形態の考察をしていく予定です。
嚥下内視鏡検査のCDをお渡ししますので参考にして頂ければと思います。」
2016/12/28
今年も残すところあと3日あまりとなりました。
歳を重ねるごとに時間の流れがどんどん早くなる気がします。
日本は今超高齢化社会に向けて突き進んでいます。
というよりすでにその入口です。
これまでの様に若い世代が高齢者を支えるという構図が通用しなくなるのです。
高齢になったとしても、健康であり続ける事がこれまで以上に重要になってくるのです。
そして健康であり続ける為の入口が、いつまでも自分の口で食べれる事です。
そのためにはお口の健康は非常に大事です。
そのためには日頃からの予防をしっかりする事です。
ただ自分の足で歯科医院に通える方はいいのですが、通えない方も増加しておられます。
タニダ歯科医院ではそういう方の為に積極的に訪問診療に取り組んでいます。
また飲み込む事が困難な方の為に嚥下診療もしております。
当院の訪問診療の理念である「すべての人に食べる喜びを」を実践する為に、来年はさらに訪問診療を充実する様に努力する所存です。
最後に今年も1年ありがとうございました。
当院がこの西宮名塩の地で開業して今年でちょうど20年になります。
これからも少しでも皆様のお役に立てるようスタッフ一同頑張りますのでよろしくお願いします。
2016/11/23
最近ある週刊誌の記事に「口腔ケアが認知症を防ぐ」という特集が有りました。
記事の要点は、低栄養が認知症の大きなリスクファクターになっていることが、近年はっきりとわかっできているということです。
国をあげてメタボ対策には取り組んでいる裏側で、高齢者に低栄養の方が増えているのもまた事実です。
記事にもあるように、65歳以上だと6人に1人、85歳以上だと4人に1が低栄養に陥っているというデータが厚生労働省の国民健康・栄養調査からも出ています。
低栄養になると、鉄分、脂質、タンパク質の数値が減少します。
そしてこの3つの要素の一つでも減少すると認知症になるリスクが高まるということです。
低栄養になる原因はいくつか考えられますが、その一つが口腔機能の崩壊です。
例えば歯周病で歯を失ったまま入れ歯やブリッジ等で歯を入れないと、食べる物の種類や量も制限されます。
低栄養への入り口です。
また噛めないと食物を粉砕できないので飲み込みにくくなります。
そうすると嚥下障害に陥り、誤嚥性肺炎にもなりかねません。
このように口腔ケア(上記は口腔ケアというより、口腔の機能修復ですが)をすることによって認知症へのリスクをかなり下げることができます。
また口腔ケアよって、高齢者によくある口腔乾燥の改善も見込まれます。
当院ではチームを組んで訪問診療に取り組んでいます。
ベテランの歯科医師や衛生士が施設や居宅に往診して、ご自分や、ご家族でなかなか口腔ケアができない方をサポートしています。
口腔内の治療はもちろん、定期的な口腔ケア、呑み込めない方の嚥下診療もおこなっています。
お困りの方がおられましたらお気軽にご相談ください。
2016/11/09
今日は誤嚥性肺炎についての講演を、兵庫県介護老人保健施設協会阪神支部様からのご依頼でさせていただきました。
場所は宝塚商工会議所多目的ホール。
私の講演の後には、当院の主任衛生士の講演とチーフ衛生士による実習もさせていただきました。
ケアマネジャーさんや管理栄養士の方を対象の講演会で、皆さん熱心に聞いていただきました。
誤嚥性肺炎は近年増加傾向にあります。
日本人の死亡原因の4位であったのが、ここ数年で脳血管疾患と入れ替わり3位になっています。
肺炎について言えば、その90%以上が70歳以上の高齢者で、その中の実に80%以上が誤嚥性肺炎で亡くなられているというデータもあります。
当院でも、居宅や施設の方の訪問診療で口腔ケアを行いながら、VE(嚥下内視鏡)を使った嚥下診療で、誤嚥性肺炎の早期発見とその治療に取り組んでいます。